◆原作者の時雨沢恵一先生からアニメ放送開始コメントをいただきました!

『アリソンとリリア』公式サイトをご覧の皆様、再びの今日は。

原作者の時雨沢恵一です。 
いよいよ放送が始まりました!
これから全二十六話、アリソンとヴィル、ベネディクトとフィオナ、そして後半から登場予定のリリアとトレイズにおつきあいください。
自分のことで恐縮ですが、放送前の三月は仕事と私事で大変な一ヶ月でした。どうにかそれを乗り越え(編集さんに怒られずにすみました)、新年度のスタートをアニメ放送と共に始められることを、本当に嬉しく思います。

ちょっと昔話をさせてください。
今からちょうど九年前、一九九九年の春――就職活動に失敗して無職だった時雨沢は、必死になって小説を書いていました。
電撃文庫が主催する、新人賞へ応募するためです。私の処女作、『キノの旅』でした。
そしてそれが認められ二〇〇〇年にデビューを果たし、作家生活が始まりました。
『キノの旅』をW巻まで書き、次の作品として、そして初の長編として世に出したのが『アリソン』でした。二〇〇二年の三月でした。
この作品はとにかく“難産”でして、あまりの進みの遅さに一度中断し、『キノの旅』のX巻を書き終えてから残りを書いた、などということもありました(以前別の場所で勘違いして、W巻と言ってしまいましたが正確にはX巻です)。
『アリソン』のタイトルに“T”は入っていません(『リリアとトレイズ』には入っています)。これは、次が必ずしも出せるとは限らず、一巻で終わってしまうことが十分に有り得たからです。
その後、読者の皆様のおかげで『アリソン』はU巻、V巻と年に一冊のペースで書いていくことになりましたが、これまた本当に大変でした。
『キノの旅』のような短編連作では、一話はおよそ三日から一週間、長くても二週間ほどで書き終わります。集中力がとぎれる前に終わり、次の話へとリセットできます。
ところが長編はそうはいきません。分量にして『キノの旅』の二倍から三倍を、三ヶ月から四ヶ月かけてひたすら進めていく執筆作業となります。
書けども書けども、まだ終わりが見えてこない。
一箇所で詰まると、その先へと何日も進めない。
締め切り日は刻々と近づくので、気ばかり焦ってさらに進まない。
外は紅葉がキレイで天気もいいのにバイクに乗れない。――まあ、自分が悪いんですが。
そんな辛い中で思っていたことが、
「書き終えたら、いつかアニメ化されるかもしれない!」
ということでした。
当時は『キノの旅』がアニメになっていましたので、
「願わくばこっちも!」
と、シーンを頭の中でアニメとして空想しつつ、自分を奮起させ――
最終的にはなんとか、期日通りに書き上げることができました。
“アニメ化の夢”はまるで、砂漠彷徨い中の人が見る、オアシスの蜃気楼のようでした。

なぜにこんな昔話をしたかといいますと――
今年の春、アフレコに立ち会ったりNHKでの試写会で一話を見たり放送を観たりしている最中、当時のことを不意に思い出して、目が潤んだことがあったからです。
どうにかこうにか泣きませんでしたが、時雨沢ちょっとピンチでした。
オアシスは、いいところでした。

今これを読んでいる方の中に、将来小説家や漫画家を目指している人がいたら――
もし将来あなたがデビューして、そしてアニメ化されて、放送を見たときに、
「あ、時雨沢があの時感じていたのはこれか」
そう分かってくれると思います。

半年にわたる放送期間ですが――
終わってみれば、「短かったなあ」と思うかもしれません。
逆に、「長かったなあ」と思うかもしれません。
でも今は――その真っ最中。
毎週一回あるアフレコ立ち会いと放送の日を、ワクワクしながら待っています。
 
半年にわたる放送期間ですが――
終わればまた――
時雨沢は、別の砂漠に行ってきます。

スタッフの皆様、キャストの皆様、そして製作、放送に携わる皆様。
アニメにしていただき、本当に感謝します。ありがとうございました。
おかげで、時雨沢はまたしばらく彷徨えます。

二〇〇八年 五月 時雨沢恵一

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(C)時雨沢恵一/アスキー・メディアワークス/「アリソンとリリア」製作委員会